2026年11月3日、日刊ゲンダイDIGITALの連載「がんを遠ざける食べ物」の第1回として、「『キャベツの千切りを週2皿』で膵臓がんリスク4割減」という記事が出ました。筆者は膵臓がんを専門とする外科医の佐藤典宏さんです。
膵嚢胞やIPMNの経過観察をしていると、「膵臓がん」と「リスク4割減」が並んだ見出しは、どうしても目に留まります。元になった研究を一次情報で確かめて、経過観察中の人がどう受け取ればよいかを考えました。
記事が言っていること
- アブラナ科の野菜(キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、大根、小松菜、白菜など)に含まれるスルフォラファンには、細胞や動物の実験で、がんの増殖を抑える働きが報告されている
- 2021年に医学誌Cancer Epidemiologyに載った米国の研究で、生のアブラナ科野菜を週1.5サービング以上食べていた人は、0.5サービング以下の人に比べて、膵臓がんのリスクが40%低かった
- 1サービングは野菜で約70g。キャベツの千切り1皿が約50gなので、週2皿でその量になる
筆者自身も、「これだけ食べていればがんにならない、という食べ物はない」と書いています。見出しは強いですが、本文はそこまで断定していません。
元の研究は、どんな研究か
記事が引いている論文は、米国ニューヨーク州のRoswell Park総合がんセンターの研究チームによる「Cruciferous vegetable consumption and pancreatic cancer: A case-control study」(Cancer Epidemiology誌、2021年)です。要旨を確かめると、こういう研究でした。
- 症例対照研究。同じ病院で膵臓がんと診断された183人と、がんのなかった732人に、過去の食事を質問票で答えてもらい、比べた
- 質問票は52項目の食物頻度調査。データは1982年から1998年に集められたもの
- 年齢・BMI・性別・喫煙・肉の摂取量・膵臓がんの家族歴で調整した結果、生のアブラナ科野菜を週1.5サービング超食べていた群は、0.5サービング未満の群に比べて、膵臓がんのオッズ比が0.60(95%信頼区間 0.39〜0.93)だった
- 生・加熱・合計のいずれも、週1サービング増えるごとにオッズが7〜15%低く、いちばん強かったのは生だった
「リスク4割減」は、このオッズ比0.60から来ています。
読むときに、知っておきたいこと
因果関係を示した研究ではありません。 症例対照研究は、「食べていた人に、がんが少なかった」という関連を見る方法です。野菜を食べたからがんが減った、と言うには、別の形の研究が要ります。論文も「逆相関している可能性がある」という書き方です。
思い出して答えた食事です。 すでに膵臓がんと診断された人と、そうでない人が、過去の食事を質問票で答えています。病気になった人は食事を振り返るときの答え方が変わりやすい、という性質(思い出しバイアス)が、この型の研究にはつきものです。
30〜40年前のデータです。 1982〜1998年の記録を、2021年に解析した研究です。それ自体は悪いことではありませんが、当時の食生活と診断の精度は、いまと同じではありません。
膵嚢胞やIPMNを対象にした研究ではありません。 調べているのは「膵臓がんになったかどうか」で、嚢胞が大きくなるかどうか、IPMNががんに進むかどうかは、この研究の対象外です。キャベツを食べると嚢胞の経過が変わる、ということは、この論文からは言えません。
経過観察中の人は、どう受け取ればいいか
私自身の受け取り方を書きます。医学的な助言ではありません。
- 生のキャベツや大根を食べることに、害はほぼありません。好きなら、週に2皿増やすのは気軽にできることです
- ただし、それは検査の代わりにはなりません。嚢胞の経過は、主治医と決めた間隔の検査で見ていくものです
- 逆に、「食べてこなかったから嚢胞ができた」と自分を責める材料にもなりません。この研究は、そういうことを示していません
見出しの「4割減」は、それだけを取り出すと大きく見えます。でも元の論文を読むと、「関連があるかもしれない。生で食べることは修正できる生活習慣のひとつ」という、控えめな結論でした。そのくらいの距離感で受け取るのが、ちょうどよいと思います。
次の検査までの時間に
食べ物の記事は、これからも出続けます。見出しの数字を見たら、「どんな研究か」「因果か関連か」「嚢胞を見た研究か」の3つを確かめると、落ち着いて読めます。
けいかろくでは、名前もメールアドレスも出さずに自分の検査の記録を置き、同じ大きさ・同じパターンの人の「その後」を数字で見ることができます。食べ物の話より確かなのは、自分の記録の推移です。
※ この記事は、運営者が公開情報をもとにまとめたものです。医療の助言ではありません。食事や検査の判断は、かならず主治医とご相談ください。
出典
- 日刊ゲンダイDIGITAL「(1)『キャベツの千切りを週2皿』で膵臓がんリスク4割減」(佐藤典宏、2026年11月3日) 日刊ゲンダイDIGITAL
- Morrison MEW, Hobika EG, Joseph JM, et al. "Cruciferous vegetable consumption and pancreatic cancer: A case-control study." Cancer Epidemiology. 2021;72:101924. PubMed / DOI